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BPDの予後を予測する因子は何かーその2ー

ザナリーニの定義した「極めて良い回復(excellent recovery)」に該当する、GAFスコア71点以上の心理社会的機能を示す人物の説明は以下のようなものである。

『症状があったとしても、心理的社会的ストレスに対する一過性で当然の反応である(例:家族と口論した後の集中困難)。 社会的、職業的または学校の機能に関してごくわずかな障害以上のものはない(例:学業で一時的に遅れをとる)』

確かにこれは、達成されて不満を抱く人はまずいないような回復像だろう。

では「極めて良い回復」を予測する因子はどのようなものであり、それは良い回復(good recovery)の予測因子とはどのように異なるのだろうか。

ザナリーニらが行なった研究から、極めて良い回復を達成する上で最も良い予測因子となるのは、以下の5項目であることが明らかになった(Zanarini MC, Temes CM, Frankenburg FR, et al. Description and prediction of time-to-attainment of excellent recovery for borderline patients followed prospectively for 20 years. Psychiatry Res 2018;262:40–5.)。

高いIQ

子供の頃の学業歴が良好なこと

大人になってからの(調査開始に先立つ2年間における)職業歴が良好なこと

協調性が高いこと

神経症傾向(脅威、懲罰、そして不確実性に対して不安、抑うつ、怒り、パニックといった、マイナスの情動を抱きやすい傾向)が低いこと

(「良い学業歴」「良い職業歴」とは、患者がずば抜けた成績を取っていたり、一流企業に勤めていることを意味しているのではなく、教科や業務を地道にやり通す能力を持つか否かが問われていることに注意されたい)。

これを「良い回復」の6つの予測因子と比較してみよう。

まず「良い回復」を達成するか否かと有意な関係を持っていた、<BPDが慢性的であるかどうか>、あるいは<併存疾患があるかどうか>は、「極めて良い回復」が達成されるか否かとは有意な関係を持たなかった。

また「良い回復」の場合と同じく、「極めて良い回復」の場合にも、BPD患者がどのような人物であるかーどのようなパーソナリティ特性(パーソナリティの基本的単位)を持ち合わせているかーが有意に関連していた。

神経症傾向が低く、協調性が高いというこのパターンは、BPD患者の気質に関する典型的なパターン―神経症傾向が高く、協調性が低い―とは正反対のものである(Distel, M.A., Trull, T.J., Willemsen, G., Vink, J.M., Derom, C.A., Lynskey, M., Martin,N.G., Boomsma, D.I., 2009. The five-factor model of personality and borderline personality disorder: a genetic analysis of comorbidity. Biol. Psychiatry. 66,1131–1138.)。

このような正反対のパターンは、患者が子供の頃に、あるいは大人になってから、成功を収める可能性をより高くするようなパーソナリティとみなすことが出来るだろう。

さらに「良い回復」の場合と同じように、「極めて良い回復」を達成できるか否かは、患者がどのような能力を持つかー以前の職業歴や学業歴が良好であるか否かーと有意に関連していた。

以上から、BPD患者が「極めて良い回復」を達成できるか否かは、彼らがどのような人物であり、どのような能力を持っているかによって主に左右されることがわかる。

逆に、精神病理の程度や、小児期に逆境(例えば虐待)を経験したか否かは、彼らが「極めて良い回復」を達成できるか否かとは有意な関係を持たない。

これはBPDを治療していく上で何を重視すべきかについて重要な示唆を与える事になるだろう(Zanarini, M. C. :In the fullness of time: Recovery from borderline personality disorder. Oxford University Press.2019)。

たとえば彼らの予後を改善する上で、レジリエンス(回復力)あるいは物事をやり通す力(grit)を改善するためのトレーニングをおこなうことは、極めて重要である可能性がある。

なぜならこれらは、患者が職業上の能力を発揮する上で、そして彼らの気質が持つ、望ましいとは言い難い側面に対処する上で、共に必須であるためである。

ただしこうした能力を身につけるためのトレーニングをおこなうのは、患者にとって決して楽ではないし、かなりの時間や手間をかける必要もある。

(ここでは、そもそもそうしたトレーニングをおこなうノウハウを持っている治療者が殆どいないという深刻な問題は措いておくことにする)。

患者は手遅れにならない内にー出来る限り40代になる前にーそうした能力を身につけておく必要がある。

だから本当は彼らはー「より満たされた人生(fuller life)」を送ることを求めて(!?)ー他人に腹を立てたり、攻撃したりすることに時間やエネルギーを浪費している暇などないのである。

それがどれほど彼らの衝動性を(一瞬)満足させたとしても、失われた時間は取り返すことが出来ないのだから。