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GAF71の壁ーその2ー

前回述べたように 、 境界性パーソナリティ障害(BPD)患者 の中で、GAFスコアが71~80の区間に達することのできる者の割合と、GAFスコアが61~70の区間に達することのできる者の割合には大差がある。

ではそれぞれの区間を定義づける特徴には、実際にはどれくらいの違いがあるのだろうか。

GAFスコアが71~80の区間にあると評価される人物の特徴は、以下のようなものである。

a.(持続的な精神症状はなく)もし症状がみられたとしても、心理的社会的ストレスに対する一過性で当然予測される反応に過ぎない(例:家族と口論した後の集中困難)。

b.社会的、職業的または学校の機能に関してごくわずかな障害以上のものはない(例:学業に関して一時的に後れを取る)。

それに対してGAFスコアが61~70の区間にあると評価される人物の特徴はこうだ。

a.いくつかの軽い症状が認められる(例:抑うつ気分と軽い不眠)か、あるいは社会的、職業的または学校の機能にいくらかの支障がある(例:たまにずる休みをしたり、家の金を盗んだりする)。

b.ただし総じて機能はかなり良好であり、有意義な対人関係もいくらかはある。

さて一見したところ、両者の区間の特徴にそう大きな差は認められないように見えるかも知れない(まあ、家族にとって「たまに家の金を盗まれる」のが「良い」と思えるかどうかは微妙かも知れないのだけれど)。

だが症状あるいは社会的機能に「持続的に」問題が認められるか否かという一点に絞って考えると、両者の区間の特徴にはかなり明確な違いが見られることがわかる。

GAFスコアが71~80の区間にあると評価される人物 は、症状に関して、あるいは社会的機能に関して、持続的な障害がみられることはない(みられたとしても心理社会的ストレスに対する一過性の反応である)。

それに対して GAFスコアが61~70の区間にあると評価される人物 は、症状あるいは社会的機能に関して、取り立てて心理社会的ストレスの存在下でなくても、軽度ではあるが持続的な障害が見られる。

(ちなみに双方の区間のこうした違いは、2004年に公表された修正GAFスケールの改訂版[mGAF-R]では、 GAFスコア71~80の区間の特徴を「軽度の一過性の症状」あるいは「社会的機能の(軽度)一時的障害」、 GAFスコア61~70の区間の特徴を「軽度の持続的症状」あるいは「社会的機能の(軽度)持続的障害」と記載することによって、 より明確になっている)。

症状あるいは社会的機能に持続的な障害がみられると言っても、それらはあくまでも軽度なもの(たとえばmGAF-R は、症状の例として「軽度あるいは症状の和らいだうつ病と、軽度の不眠の双方あるいはいずれか」を挙げている)なのだから、GAFスコアが61~70の区間 にまで達しているBPD患者であれば、後はさほど波乱なく回復コースに乗るのではないかと考える人も多いことだろう。

だが実際にはそうなるとは限らない。

ザナリーニ言うところの「良い回復(good recovery)」を一旦は示すに至ったーGAFスコアが61~70の区間に到達し、その状態を2年間維持することが出来たーBPD患者であっても、そのわずか2年後には18%、そして14年後までには44%がその状態を喪失してしまうのである(Zanarini.M.C. : IN THE FULNESS OF TIMEーRecovery from Borderline Personality Disorderー. New York , Oxford University Press, 2019)。

すなわちBPD患者が獲得した「良い回復(good recovery)」とは、実際にはかなり不安定なものである。

前回にも述べたように、それらの患者の大半はとうの昔に症状的には寛解しており、その上BPDの症状自体が再発することは稀(まれ)であるにも関わらずそうなのである。

そのあたりの事情については次回に更に詳しく説明することにしよう。