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BPD患者は、仕事を続けるためにどのような工夫をしているのかーその2ー

BPD(境界性パーソナリティ障害)の患者が継続的に仕事を続ける上でしていた工夫には以下の3つの戦略が含まれていた。

1.自律戦略

2.対人関係に関する戦略

3.業務に関する戦略

自律戦略とは、業務中に生じるネガティブな感情をうまくコントロールしたり、職場のルールを守ったり、仕事と私生活をうまく調和させたりする目的でおこなわれる戦略である。

多くの場合に取られていた戦略は、健康的な生活習慣を維持することに関連したものであった。

(これは多くのBPD患者が陥りがちな生活習慣の対極[=正反対]であることに注目すべきである)。

規則正しい生活を送り、良質な睡眠を取ること、適度な運動をすること、仕事以外で趣味などの社会的な活動をおこなうよう心がけることなどは、その代表的なものである。

ある患者は以下のように述べた。

「私は毎日身体を動かしています(ダンス教室、ランニング、犬の散歩、ジムでの運動など)。そうすることでエネルギーを発散し、心配事についてくよくよ考えなくて済むのです。身体を動かした後はいつも気分が良くなり、休まった気がします」

また、多くの患者は、自宅では仕事のことについて考えないように心がけるなど、仕事と私生活を区切るための工夫を凝らしていた。

さらに、深呼吸やマインドフルネス(禅の瞑想技法)、STOPテクニック(感情的になった時や強いストレスを感じた時に、冷静さを取り戻すための心理的技法)を用いていると報告する患者も多かった。

(ちなみにSTOPとは、Stop[止まる]、Take a breath[息を吸う]、Observe[観察する]、Proceed[次に何をするかを慎重に(=マインドフルに)検討する]の頭文字を取ったものである)。

自分の達成を認めたり、小さな成功を祝ったりすることを通して、仕事を継続する意欲を高めようとする試みも、比較的多く報告された試みの一つである。

「自分を褒めるようにしています。『今日はここが良く出来た』と確認すると、仕事に行くモチベーションになるのです」と述べた患者の戦略は、その代表的なものと言えるだろう。

以上からわかるように、仕事をしている患者の大半は、自律戦略として前向きで適応的な方法を用いていた。

自傷行為などの、仕事に悪影響を与える可能性がある方法を用いていた患者もいたのは事実だが、その数は極めて少数であった。

これまでに述べたことからもわかるように、自律戦略は普段の生活習慣と強い関連を持つから、仕事をしている時にだけ、あるいは就職が決まってからおこなえば良いようなものではない、という点に注意すべきである。

対人関係上の戦略とは、職場での人間関係をできるだけ健全でシンプルなものに保つための工夫である。

たとえば多くの患者は、職場で会話をおこなう際に、対立的な態度を取るのではなく、全ての人の考え方を考慮に入れ、傾聴するよう心がけると述べた。

(これは多くのBPD患者が陥りがちな対人関係の持ち方の対極[=正反対]であることに注目すべきである)。

興味深いのは、とりわけ同僚とのやり取りにおいて、「個人的な会話や自己開示を控えることで、感情的な距離を保つようにしている」と述べる患者が多かったことである。

「自分のことについて、あけすけに話さないようにすること、あるいは職場で友達を作ろうとしないことが、私にとって一番良いやり方だと気づきました。私は仕事をしに行っているのであって、必要なことをやり、それ以外のことを考えすぎないようにしています。そのやり方が私にはすごく役立つんです」と述べた患者などはその典型である。

(ちなみに、高校を中退したり、大学を休学したりといった理由で、他の学生と年が離れてしまった患者が復学する際にも、この戦略が役立つことは多い)。

業務に関する戦略とは、自分の仕事量や職務上の責任をうまくやりくりするための工夫である。

この戦略に関しては、BPDに特異的なものは少ない。

患者が挙げた方法には、自分のエネルギー量、作業の複雑さ、緊急度に応じて、休憩時間も含めた仕事の内容や時間の組み立て方を工夫することが含まれていた。

「私は自分の手帳をよく整理するようにしています。これは私にとって欠かせない道具です!仕事の内容ごとに色を分けて、その色が何を表すのかを示す凡例(対応表)を作り、それぞれの仕事に対応させていいるんです」と述べた患者の工夫などはその典型だろう。

また、当然のことではあるが、気が散らず快適に働ける環境を整えることも重要であるとされた。

これまでに述べたように、BPDの患者が仕事を継続するためにしている工夫には、疾患特異的なものから一般的なものまでさまざまなものがある。

他のBPD患者がおこなっている、さまざまな工夫について患者や家族が知ることはーあるいは治療者が患者に対してセッションの中で教えていくことはーこうした患者が仕事をする際にどのような工夫を凝らすべきなのかについて、検討していく上で重要だろう。

先に述べたように、このような工夫には、BPD患者が陥りがちな生活形式やコミュニケーションの仕方の対極(=正反対)に位置づけられるものも多い。

その意味で、こうした情報は、患者が普段からどのような生活を送り、家族を含めた身近な人々とどのような関わりをすべきかについて、貴重な情報を提供してくれるものであると言って良いのである。