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臨床心理士の訓練はどのようにおこなわれるかー当院勉強会の風景からーその4

前回の面接の更に続きを掲載する。

今回は、摂食障害に関する問題が面接の終盤になってクローズアップされ、家族面接の導入が検討されて初回面接は終了することになる。

前回と同じように、下線部分は、面接で何が起こっているかについて説明している部分である。

患者役をA、心理士の髙橋をTで示すのも前回と同様である。

T:じゃあ、えっと、そういうのを気にしちゃうところっていうのは中学校高校生ぐらいからあって、その前は特になにも困ったこととか

A:その前はちょっとあんまり覚えてないですけど

T:小学校とか。お母さんとか先生から言われたことも特に……(枠組み作り:時期の確認)。

A:うーん

T:なんか、お友達関係とかで言われたことは特になかったですかね。

A:うーん、なんかゼロかどうかっていうのはわかんないんですけど、でもなんか、多分頻繁にそういうことを言っていたのは多分、中高ぐらいだと思うんですよね。

T:わかりました。これも大事なお話なので覚えておきますね(このテーマが重要であることを確認しておく)。それで、ちょっとお話し変わってしまうんですけれども、まあ、そもそも今日お時間とっていらしていただいたんですけれども(治療意欲の確認)、あの、こちらをですね、ご予約していただいたのがお母さんっていうことで、まあお母様がAさんのご様子見られて、ちょっとどこかに相談っていうかかかったほうがいいんじゃ無いかって言うふうに思われてご予約されたと思うんですね(他者から見た本人の問題について)。それはお母さんから何かお聞きしていますか?。

A:うーんと、それはまあきっかけはなんか、集団で認知行動療法みたいなのをやっているみたいな、そういうニュースかなんかわかんないですけど、テレビでそういうのを見たらしくって。で、そこに最初電話をかけたら、それは復職支援のためのものだったらしくって、私には該当しないと。それで、母が予約の電話をした時に、私のことを色々話したみたいなんです。そしたら専門的なところでじっくり話を聞いてもらったほうが良いんじゃないかっていうふうに言われたみたいで。それで母は予約したんですけど。

T:えっと、相談行ったほうがいいんじゃ無いかって言われたということですね。わかりました。あ、すみません、あと、ちょっと一個聞きそびれたところがあって、えっと、こういった精神科とかカウンセリングとかっていうのを受診したのは、ここが初めてですか?(受診歴の確認)

A:ではないです。

T:あ、そうなんですね。

A:今も通院はしていて

T:そうでしたか。

A:そこはお薬だけをもらっているだけなので、別に色々話聞いてもらったりとか、そういうことはしてないです。

T:精神科ですか?

A:あ、そうです。

T:それはいつぐらいからどういう問題で?

A:もう長いんですけど、17ぐらいの時から摂食障害があるので(別の問題が明らかになる)、それでかかって、で、そこから今までずっとお薬だけもらっているっていう感じなんですけど。

T:なるほど、摂食障害がもともと……

A:そうです。

T:おありでっていうところですね。わかりました。あれですかね、お母様としては、そっちもちょっと心配なんですかね?摂食障害(摂食障害を母親がどの程度心配していたかどうかについて尋ねる)

A:まあ、そうですね。治ったらいいって言うふうには思っていると思うんですけど。

T:17歳からだからもう、10年以上ですよね(長期にわたり問題があることの確認)

A:あ、そうです。

T:だから、今も摂食障害の症状としては、あるっていうことですよね。(摂食障害があることの確認)

A:あ、そうです。

T:そうですか。ちょっとお時間がもうそろそろで、お話しが途中になっちゃうかもしれないんですけれども。えっと、そうだな、一応ちょっと、いま摂食障害どういう感じか、症状がですね。どういう感じなのかっていうのをちょっと教えていただけますか?(摂食障害の現在の程度に関する確認)

A:今は、まあ食べ吐きがあるんですけど。

T:食べ吐き。食べ吐きどういうときにしちゃいます?なんか、他の患者さんの場合には、ストレス解消法として、いっぱい食べて、で太りたくないから吐くっていう感じでされることも多いんですけれども、どうですかね?(食べ吐きのきっかけ、機能に関する質問)

A:まあそうですね。ストレスがある時とか、まあ、あとはイライラした時とかそういう時が多い。

T:だから、あれですよね、たとえば、お仕事の、さっきのお仕事のお話で言うと、営業さんに注意されちゃった時とか、ストレスかかったと思うんですけれども、そういう時はどうですか?食べ吐きしてましたか?(具体例により、仮説を検証する試みをおこなう)

A:あ、そうですね(仮説が患者により裏付けられる)。

T:わかりました。そうですね、この、ストレスと関係している、ストレスがあって食べ吐きをしているっていうことだから、お仕事のこととも関係があると思うんですね(摂食障害と仕事上の問題、対人関係上の問題をリンクさせる)。で、まだその、摂食障害の症状については詳しく、今回はちょっとお聞きできないと思うので、また、今後、次回以降、やっぱり、お聞きして行ったほうがいいことだと思います。で、それで、まあ、17歳の時から摂食障害っていうことだから、お母様は当然Aさんが摂食障害だっていうことは知っていて、で、こちらにご予約されるぐらいだから、まあ、ちょっと心配はされていると思うんですね。で、まあ、この次じゃなくてもいいですけれども、将来ある話として、やっぱりちょっとお母様の方に来ていただいて、今までどういうご様子なのかっていうのもまあ、聞く機会をちょっと設けたいなとは思うんですけれども(家族面接の提案)。えっと、Aさんとしては、お母様が、こちらにいらしてお話しするっていうのはどうですか?(家族面接をおこなうことに対する本人の抵抗感の有無の確認)

A:まあ母が来て、まあ、勝手に話していただく分には別に構わないですけど(母親が1人で来て面接を受けると誤解している様子)

T:まあ、そうですね。今日は、今のお仕事のお話とか、お仕事で問題になっていること、気になっているようなことは、中学高校ぐらいからあったっていうお話を主にお聞きしたと思うんです。それから今のお仕事を始めて一年っていうことだから、前にもお仕事されてましたか?(状況・文脈の確認)

A:あ、してたことがあります。

T:だから、その頃のお話しや、小さい頃のお話しも含めてお聞きしなきゃいけないところはまだまだいっぱいあるので。それをお聞きしてからお母様に来ていただたくのはどうかなっていうお話にはなるんですけれども。お母様に一緒に来ていただいて、こういう様子だったんだ、みたいなことをお話ししていただくっていうのは、Aさんとしては、そんなに抵抗はないですか?(家族面接をおこなうことに対する本人の抵抗感の有無の確認)

A:いや、一緒にはちょっとあれですけど(同席面接には拒否的であることがわかる)。

T:あ、そうですか。

A:まあ母が来て、一人で来て勝手に話すのは別に

T:そうですか、ちょっと一緒には嫌だなっていうのはどういう理由なんですか?(同席面接に拒否的である理由の確認)

A:うーん、母は私のことを、思い込みが激しいとか結構言ったりとかしますけど、母は母で、私からすると、なんか思い込みで私のことを勝手に言っているなっていうふうに思ったりしちゃうので。なんか、一緒にはあんまり話したく無いかなっていう感じはあるんですけど。

T:えっと、Aさんとしてはあれですか、お母様のお話しは、お母様の思い込みだと(母親の発言を本人がどのように受け取っているかの確認)

A:いや、全部が全部っていうわけじゃないですけど。ただ、なんかあんまりこっちの言い分みたいなのを聞いてくれる感じがしなくって(同席面接が嫌な理由1)。なんかこう、結構一方的に言われているような感じがしちゃうから、あんまり母の言っていることは聞きたく無いっていうか(同席面接が嫌な理由2)

T:なるほど、まあ一方的に言ってくる感じがするので、あんまりお母様のおっしゃっていることを聞きたく無いということですね。たとえば、どういうことを言われちゃいそうですか?(具体例の提示要求)

A:うーん……

T:なんか、お仕事で、こういう問題があるみたいで、みたいな話をお母様にすると、今までどうでしたか?(具体例の提示要求)

A:どうなんですかね。なんかでも、私の大変さというか、私が辛いって思っているみたいなことに関しては、あんまり、こう、わかってくれないのかなあとか(母親という他者が「分かってくれない」ことに対する不満)。なんか、いろいろ言われちゃうのかな、みたいな気がしているので(母親という他者からコメントされることに対する不快感)。

T:そうですね。そうか、そういうふうに言われちゃうかも知れないので、ちょっと一緒には面接を受けたくないというか、そういう感じ(同席面接が嫌な理由のまとめ)。

A:そうですね

T:なるほど、わかりました。えっと、まだお話しほんのちょっとしか今日お聞きしていなくって。まあ今ある問題と、前はどういう感じだったのかっていうことを、ほんのちょっとしかお聞きしていないですよね。お母様がどういう人で、どういうふうに反応される方なのかっていうのは、Aさんからはまだ全然お聞きしていないから、お母様にすぐに来ていただくっていうことはないとは思うんですけど(家族面接の段取りの説明)。まずはまたちょっとAさんの方から色々お話しを聞かせていただいて、その上でお呼びするっていうお話をまたしようと思います。それからまあ、実際いらしていただいた時は、なんていうんですかね、お母様と一緒にいらっしゃる時のAさんの居心地の悪そうな姿も拝見できると、まあ私にとってもAさんにとっても役にたつ情報になるかもしれません(家族面接を行うメリットの説明)。それから、お話が終わった後には必ずAさんと私のお時間も設けて、ここが嫌だったとか、ああいうこと言われたのが嫌だったっていうお話もしていただくのも意味があることだと思うんです(個人面接をしないわけではないことについても説明)。たぶんお母様に来ていただくとしたらそういう流れになると思いますし、まあ、すぐに来ていただくというお話はしないと思います。それから、摂食障害のお話はまだ全然お聞きできていないんですけど、まあ、お仕事のストレスのこととも関係していることですし、今後ももちろんお聞きしていくと思います(摂食障害と仕事上の問題、対人関係上の問題をリンクさせ、今後も取り上げていくことの予告)。ただ、食べ吐きした後って、なんていうんですかね、お掃除とかゴミ捨てとか、片付けとか毎回されてますか?(後始末をする能力の確認)

A:はい、してます。

T:食べ吐きは今どれぐらいの頻度でされます?

A:うーん、その時にもよるんですけど

T:じゃあここ1ヶ月はどうでした?(具体例の提示要求)

A:うーん、なんかすごくここ最近仕事が忙しいので、忙しい時は帰ってきて、食べ吐きするっていうよりは疲れてそのまま寝ちゃったりもするので、だから、ここ最近だと1週間に1回とか、2回とかぐらいだったかな

T:週に1回から2回ですね。まあその時に、後始末っていうか、お掃除は必ずされていると(状況・文脈の確認)

A:まあ大体してます(必ずではないことが明らかになる)

T:大体してて(必ずではないことを確認した上で流す)……で、そのあとあれですか?歯磨きとかちゃんともされます?

A:うーん、なんか、してる時もありますけど、そのままなんか疲れて寝ちゃうみたいな時もあります。

T:なるほど、あの、歯磨きは毎回されたほうがいいと思うんですね(生活指導)。戻した時のその胃酸で、歯がボロボロになっちゃうので。そういうこと防ぐ意味でも

A:もうなってるんですよね。もう歯医者さんにもエナメル質が全部ないっていうのは言われているので。

T:そうですか

A:それはもうなっているんですけど。

T:これ以上進行させない上でも、やっぱり歯磨きやっておいたほうがいいと思います。で、そうですね、食べ吐きについては、お仕事のご様子ともからめながら今後お聞きしていくと思います(当面の治療方針1)。大体、今日、お伺いしたお話の中だけでいうと、やっぱりちょっとしたことで気にしやすいっていうことが、まあ、あるんですかね。だから、それについてどういう問題が起こったかっていうのをお聞き出来たらなっていうふうに思います(当面の治療方針2)。はい。で、大体今日お話しすることは以上なんですけど、何かお話ししておきたいことってありますか?

A:大丈夫です。

T:わかりました、じゃあ、これで以上になります。

A:はい、ありがとうございました。

以上からわかるように、この面接の特徴は、面接の中でなにげなく交わされている会話の中で、言葉をどのように使っているかを明確にすることである。

そのプロセスを経ないで、いくら患者と対話を重ねたところで、抽象的な話はどこまでも抽象的なものにとどまり、治療者との間で検討したり、解決の糸口をつかんだりする上での土台とはなり得ないためである。

具体例を挙げるよう患者に要求することを、通常の心理面接ではあり得ないくらい重視するのはそのためだ。

下線部分だけを最初から通して見てもらえばわかるように、そこには解決すべき生活形式上の、あるいはコミュニケーションに関わる問題が、初回面接にして既に山積している。

治療で本当に必要なことは、そうした一つ一つは小さな問題の数々を取り扱い、しばしば家族の協力の下にそれらを改善(あるいは解消)していくこと以外にないのである。