臨床心理士の訓練はどのようにおこなわれるかー当院勉強会の風景からーその3
前回の面接の更に続きを掲載する。
今回の掲載部分のテーマは、本人が思春期から感じていたという、コミュニケーションに関する問題である。
前回と同じように、下線部分は、面接で何が起こっているかについて説明している部分である。
患者役をA、心理士の髙橋をTで示すのも前回と同様である。
T:そうですか。中高っていうと、結構かなり前の昔の話ですけど、覚えているところで構いませんが、ちょっとしたことって、どんなことでしょう(具体例の提示要求)
A:何があったのかな。なんかたわいもない話だと思うんですけど、何だろうな。お友達と話していた時に、何だっけな、なんかみんなで、こう盛り上がっていて、なんか私が、他の子が言っているみたいにコメントして。なんか、すごい盛り上がるだろうなって思って言ったんだけど、他の子が言っている時みたいには盛り上がらなくって。なんかこうちょっと、シーンってなるじゃないけど、そういう感じとかになっちゃって。あれっ、何でだろうみたいな。なんかそういうので母に、私のことみんな嫌いなのかな、みたいな感じで言ってたんだと思うんですよね。
T:そうなんですね。どういうお話されていたんですかね(更に具体例を提示要求)。
A:なんか、その、中高は女子校だったんですけど、一貫の女子校だったんですけど
T:一貫校なんですね。
A:なんかそこで、結構ちょっと若めの先生、男の先生がいたんですね。それで、その先生は結構みんなから人気があるというか。なんか結構その、格好良いよねとか、先生良いよねっていう感じで女の子に人気で。なんかその先生について、良くみんなで話題にあがってて。なんか、あ、先生髪切ったよねとか、なんか今日のスーツがこうだとか、なんか、そういうことでよく、こう盛り上がっていたんですよね。なんかそういう時に、何ていうのかな、みんなそういうのを面白おかしくイジるじゃ無いけど、そういうのをみんなで話題にしてたんですけど。なんか、その髪切ったよねみたいな話のときに、私が、でもなんかあの髪型ってなんかこうでこうでなんかちょっと変じゃない?みたいなことを言ったんですね。で、結構そういう感じでなんか先生の、たとえば今日のネクタイの柄がどうだとか、そういうのでみんなで結構、こういじって盛り上がるみたいなことがよくあったから、なんかそのノリで私はそう言ったんですよね。でも何かちょっと変じゃない?みたいな感じのことを多分言ったのかな。なんかそしたら、それは私の中では、他の子達が言っているのと同じで、みんなそれで笑ってくれるじゃないけど、なんか盛り上がるだろうなって思っていたのに、みんながシーンじゃ無いけど、反応がすごい薄いというか、思ったほど反応してくれなかったりして。同じような話を他の子が言うと、すごいみんなキャッキャして、なんかそれで、盛り上がっているのに、私が同じようなことを言っても、みんなこう、盛り上がってくれないから、もしかして、みんな私のこと嫌いなのかなみたいな、そういう感じで母に言っていたんですよね(コミュニケーションに関する問題の提示)。
T:なるほど、えっと、イジる。まあ、お友達の、なんかグループですかね。グループの中で、なんかこう、まあちょっと人気の若い男の先生だったんですかね。で、イジるっていうと何ですかね。どういう感じでしょう、スーツがこうで似合ってるとか、いないとか?
A:なんだろうな、確か、なんか、例えば、あんまりこう普段して来てないネクタイとか、女の子だから凄いそういうの気づくんですよね。それで、何か今日のネクタイ、初めて締めてきていない?みたいな感じの話になった時に、なんだろうな、例えば、彼女にもらったのかな、みたいな話とか、自分で選んだのかなとか、なんかそういう感じで盛り上がっていたんだと思うんですよね。
T:なるほど、ちょっと何ていうんですかね、うーん、言葉のニュアンスとしては難しいけれども、なんかこう、イジるっていうとちょっとあの、ちょっとバカにしてるというか、なんかそういうニュアンスが入っている感じだけれども(言葉の定義の確認)、どっちかっていうと、そういうお話、なんか、ちょっとバカにしているっていう感じのお話の仕方じゃないみたいですね、そこのグループは。
A:でもなんか、私の記憶だと、たとえばなんかその、ネクタイだったか、なんかスーツだったかもう忘れましたんですけど、なんか着ている洋服とかで、えーでもなんか、あれはちょっとなんかありえないよね、みたいな感じとか、なんか、そんなような感じの話とかも出ていたと思ったんですよね。
T:ありえないよねっていうのは、えーっと、それは他のお友達が言っていた(主語の確認)。
A:そうですそうです、他の子がえー、でもあれなくない?みたいな感じで、なんかそういう話とかをしていたから。なんか、そういう感じもあったし、人気あったけど、その先生のこと、なんかこう、面白おかしくイジるみたいな、そういうところもあったような感じはしていて。
T:なるほど。そうですか。えっと、さっきおっしゃっていたAさんが先生の、なんかまあ、髪ちょっと切っていたけど、なんかちょっと変じゃ無い?みたいな、こうお話をしたらちょっとシーンとなっちゃったっていうところですけれども、その時は、まあ髪切ったよねっていう話で盛り上がっていて、なんか、似合っているよねとか、変だねとか、どういうお話で盛り上がっていたんですか、お話自体は(具体例の提示要求)?。
A:なんだろう、なんかね、そんなに凄く詳しくは覚えていないんですけど、なんか、髪切ったっていうことだけですごい盛り上がっていて、なんかだから私はそういうのがちょっと良くわかんないみたいなところもあったんですよね。なんか、別にそりゃ髪くらい切るでしょって思うので。で、男の人だから女の人が髪切るよりも頻繁に切るだろうし、っていうか、そんなの他の先生だって髪切ってるじゃんっていうふうに思って。だから、多分その先生が人気だからなんでしょうけど、なんかすごい盛り上がっていたんですよね。でも、そのグループの子達のことは別に仲良かったし、好きだったから一緒にいましたけど、なんか、そこまで盛り上がれない、良くわかんなかったんですけど。なんかそういう話で。
T:そうなんですね。どんなお話だったんですか?なんか髪型の名前とかの話ですか?(更に具体例を提示要求する)
A:なんか、髪型の名前じゃ無いけど、なんか、だからどこで切ったんだろうとか、なんか先生どういう、なんか、注文の仕方じゃないけれども、何て言ってその髪型にしてもらったのかなとか、なんか多分そういうような話で盛り上がっていたんですよね。なんか美容室に行っているのか床屋なのかとか。そういう話だったと思うんですけど。
T:行ってるのか。なるほど、先生がどういう風に注文したんだろうねとか、そういう感じなんですね。そこで、まあお話としてはどういう注文をして切ったのかな、美容院なのかなとかそういうお話をしているときに、ちょっとあの髪型変だよねっていうお話をしたら、ちょっとしらけてしまったというか(問題が起った文脈がどのようなものであったかの教示)。
A:うん、なんかそうですね、あんまり、なんかそれに対しては、みんなコメントしないというか、反応が薄いっていうか(本人がそれを確認する)。
T:その、あれなんですかね、お友達の方達はその先生のことを好きだったんですかね(状況・文脈の確認)。
A:うーん、まあ、なんか、みんな本当のところはどうかわかんないですけど、なんか、まあ人気はすごいありましたね。
T:Aさんはどうですか?その先生のこと(本人と周りの文脈が違う可能性について質問)。
A:うーん、なんか、別に特別なんか。みんなはいいって言っていますけど、別になんか別に悪いとは思わないですけど、特別すごいその先生が好きみたいな、そういうのはそんなになかったですけど。
T:じゃああれですかね、その、その子達と比べてAさんはそもそもあんまりその先生に興味がないというか(本人と周りの文脈が違うことが明らかになる)。
A:うーん、まあ、そうかもしれないですけれども(本人と周囲の文脈が違うことの受け入れ:問題析出)。
T:そっかそっか、興味はなかったんだけれども、まあ、その中でAさんなりにこう、お話に乗っかろうとしたらちょっとシーンってなっちゃった(文脈を把握しないまま話に入ろうとしたら失敗したというメカニズムの確認)。で、そしたら、まあちょっとAさんの方でも、ちょっとお家に帰ってから私ちょっと嫌われているのかなっていうふうに思っちゃうっていうことがあったっていうことですかね。これ結構頻繁にあったんですか?(問題の深刻さ・頻度の確認)
A:どうだろうな、そんなに毎日のようにあったとか、そんなわけではないですけど。でもなんか凄いちょっとしたことで、たとえば友達に朝お早うって言って、なんか向こうは多分普通に言っていたんだと思うんだけど、なんか、私が、あれ、いつもよりなんか、声のトーンがなんかちょっと違うな、みたいなこととかを気にしてみたりだとか。でも別にそのあと休み時間とかは、そのお友達と普通に話すから、なんか別に勘違いっていうか、気のせいかなとか思ったりとか、そういう感じでちょっとしたことで一々、えっ、もしかしたら私嫌われているのかな、みたいなのは気にはしていましたね。
T:ちなみに、そのお早うのお話で言うと、声のトーンがちょっと違うっていうのは?(具体例の提示要求)
A:なんか、いつもよりも、なんだろう、こう、テンションが低いというか、なんか、低い感じがするなというか、だからそれも別に、なんだろう、その子たとえば、その人がその日調子悪いとか、なんか他に、なんか理由はあったのかもしれないんですけど、なんか、自分が嫌われているんじゃないかみたいな、なんかそういう風に考えちゃうところがあって。
T:人の様子とか反応とかを結構敏感に感じ取って、それを、自分が嫌われているんじゃ無いかっていう方向に結びつけちゃう傾向はある
A:なんか、そういうのを母にそれはよく言われていましたね。
T:じゃあ、えっと、そういうのを気にしちゃうところっていうのは中学校高校生ぐらいからあって、その前は特になにも困ったこととか
A:その前はちょっとあんまり覚えてないですけど
T:小学校とか。お母さんとか先生から言われたことも特に……(枠組み作り:時期の確認)。
A:うーん
T:なんか、お友達関係とかで言われたことは特になかったですかね。
A:うーん、なんかゼロかどうかっていうのはわかんないんですけど、でもなんか、多分頻繁にそういうことを言っていたのは多分、中高ぐらいだと思うんですよね。
T:わかりました。これも大事なお話なので覚えておきますね(このテーマが重要であることを確認しておく)。
コミュニケーションに関わる問題の重要性を確認した後、この面接のテーマは予期しない形で摂食障害の問題へと移行していくことになる。